「百手講神事ももてこうしんじ」は、矢掛町南山田やかげちょうみなみやまだの御崎神社おんざきじんじゃに伝つたわる神事しんじで、吉備津彦命きびつひこのみことが温羅うらを退治たいじして、村むらが平和へいわになったことから、南山田みなみやまだの氏神うじがみとしてまつられ、命みことの威徳いとくをしのび、毎年まいとし２月がつ１日にちに行おこなわれるようになりました。現在げんざいでは２月がつの第だい１日曜日にちようびに行おこなわれていますが、古式こしきのままに行おこなうこの神事しんじは、昭和しょうわ５６年ねんに町まちの重要無形民俗文化財じゅうようむけいみんぞくぶんかざいに指定していされています。
　まず、神前しんぜんにかす酒さけ（酒さけかすを湯ゆに溶とかしたもの）、鬼おにのはらわた（クサギの若葉わかばの佃煮つくだに・大豆だいずの粉こなと小麦粉こむぎこを薄うすく伸のばし菱形ひしがたに切きり焼やいたもの・大根だいこんの酢すの物もの）などをお供そなえし、早朝そうちょうから祈いのりの行事ぎょうじが執とり行おこなわれます。その後ご、温羅をかたどった鬼おにの顔かおを描えがいた的まとを矢やで射いる弓取ゆみとりの行事ぎょうじに移うつり、神主かんぬしが射初いぞめをし、参拝さんぱいした氏子うじこが次々つぎつぎに的まとを射いて、穢けがれをはらい、家内安全かないあんぜんを祈願きがんします。最後さいごに、一戸一膳いっこいちぜんずつのかす酒さけ・鬼おにのはらわたがふるまわれ神事しんじは終了しゅうりょうします。
　『矢掛町史やかげちょうし』によると、この神事しんじの由来ゆらいは、旧暦きゅうれきの元旦がんたんに行おこなうことから新春しんしゅんの魔まよけの行事ぎょうじが吉備津彦伝承きびつひこでんしょうや遙照山ようしょうざんの冷泉発見れいせんはっけんの由来ゆらいと結むすびついたものと考かんがえられています。
　深ふかい闇やみとさすような寒さむさの中なか、厳おごそかに執とり行おこなわれるこの神事しんじは長ながきにわたり受うけ継つがれてきた歴史れきしの息吹いぶきを肌はだで感かんじられる行事ぎょうじといえるでしょう。