平櫛田中ひらくしでんちゅうは、明治めいじ５（１８７２）年ねん、今いまの井原市西江原町いばらしにしえばらちょうに生うまれました。福山ふくやまの平櫛家ひらくしけへ養子ようしに入はいりましたが、その家いえは裕福ゆうふくでなかったため、すぐに大阪おおさかへ奉公ほうこうに出でました。
　２１歳さいのころ、彫刻ちょうこくへのあこがれを押おさえることができず、知り合し　あいを頼たよって、当時大阪とうじおおさかで有名ゆうめいな人形師にんぎょうしの中谷省古なかたにしょうこに弟子入でしいりしました。このときに学まなんだ木彫きぼりの技法ぎほうが、田中でんちゅうの生涯しょうがいをかけることになる技法ぎほうとの出会であいとなったのです。
　田中でんちゅうは、さらに彫刻ちょうこくを勉強べんきょうするため、明治めいじ３０（１８９７）年ねんに上京じょうきょうし、高村光雲たかむらこううんの門もんをたたき、「樵夫しょうふ」などの作品さくひんを発表はっぴょうしました。
　明治めいじ４０（１９０７）年ねん、高村光雲たかむらこううんの紹介しょうかいで岡倉天心おかくらてんしんと出会であい、その後あとは天心てんしんを生涯しょうがいの師しとあおぎ、彫刻ちょうこくに専念せんねんしました。天心てんしんとの出会であいから生うまれた「活人箭かつじんせん」が人々ひとびとの関心かんしんを集あつめ、最初さいしょの出世作しゅっせさくになりました。
　昭和しょうわ１１（１９３６）年ねん、歌舞伎かぶきの名優六代目菊五郎めいゆうろくだいめきくごろうと出会であい、代表作だいひょうさくである「鏡獅子かがみじし」制作せいさくをはじめ、数々かずかずの試作しさくを発表はっぴょうした後あと、昭和しょうわ３３（１９５８）年ねんに完成かんせいしました。
　田中でんちゅうは、昭和しょうわ１９（１９４４）年ねんからは東京美術学校とうきょうびじゅつがっこう（今いまの東京芸術大学とうきょうげいじゅつだいがく）の教授きょうじゅとして後輩こうはいの指導しどうにあたるなど、日本彫刻界にほんちょうこくかいに大おおきく貢献こうけんしたことが認みとめられ、文化勲章ぶんかくんしょうを授与じゅよされ、美術界びじゅつかいの最高峰さいこうほうになりましたが、地元じもとの井原いばらへもたびたび帰省きせいし、市内しないの学校がっこうへ作品さくひんを寄付きふするなど地域ちいきの芸術げいじゅつの発展はってんにも貢献こうけんしました。