興譲館こうじょうかんは、庶民しょみんの子どもの教育を目的として、当地とうちの領主一橋家りょうしゅひとつばしけの代官友山勝治だいかんともやまかつじが西江原領内にしえばらりょうないに、嘉永かえい６(１８５３)年、漢学者かんがくしゃ阪谷朗廬さかたにろうろを招まねいて創立そうりつした郷校きょうこうです。 　
　校名の由来ゆらいは、四書の『大学』の、「一家仁なれば一国仁に興り、一家譲なれば一国譲に興る」からとられました。創設そうせつ当時の姿をとどめているのは、講堂こうどうと校門、そして阪谷朗廬さかたにろうろお手植てうえと伝えられる紅梅こうばいです。
　講堂こうどう(書斎付しょさいつき)は、嘉永かえい６(１８５３)年に建てられました。元は藁葺かやぶきであったものを、唯一ゆいいつ安政あんせい６(１８５９)年に現在のような瓦葺かわらぶきとなりました。建坪たてつぼ２５.５坪つぼ(書斎しょさいは４.５坪つぼ)本瓦葺ほんかわらぶき平屋建ひらやだてで、平成７・８年に保存修理を行い、現在は資料を展示し公開しています。校門は桟瓦葺さんかわらぶきで、初代館長しょだいかんちょうと親交しんこうのあった渋沢栄一しぶさわえいいちの揮毫きごうした扁額へんがくがかかっています。校門近くの紅梅こうばいは、樹齢じゅれい約１５０年で、根元ねもとの近くから東西とうざいに分かれ、毎年春には美しい花を咲さかせています。
　阪谷朗廬さかたにろうろは、井原市美星町いばらしびせいちょうに生まれた漢学者かんがくしゃで、江戸で学び、井原市芳井町よしいちょうで桜渓塾おうけいじゅくを開いていました。その後、興譲館こうじょうかんに招まねかれ、領内りょうないの子弟していの教育を行いました。朗廬ろうろの名声めいせいは各地かくちに広がり、遠くは九州地方からの入門者にゅうもんしゃもありました。その後、広島藩ひろしまはん、明治政府めいじせいふに招まねかれ要職ようしょくを務つとめるとともに、森有礼もりありのり、福沢諭吉ふくざわゆきちの主催しゅさいする明六社めいろくしゃに唯一ゆいいつの漢学者かんがくしゃとして参加しました。