川田甕江かわたおうこうは、文政ぶんせい１３（１８３０）年ねん、今いまの倉敷市玉島阿賀崎くらしきしたましまあがさきに生うまれました。
　玉島たましまで儒学者じゅがくしゃの鎌田玄渓かまたげんけいに学まなびましたが、玄渓げんけいは甕江おこうの才能さいのうに気付きづいて江戸えどへの遊学ゆうがくを勧すすめました。江戸えどでは、昌平黌しょうへいこうに入はいって古賀茶渓こが　さけい（儒官じゅかん・漢学者かんがくしゃ・洋学者ようがくしゃ）と大橋訥庵おおはしとつあん（儒学者じゅがくしゃ）のもとで学まなびました。この頃ころ、松山藩主まつやまはんしゅの板倉勝静いたくらかつきよは山田方谷やまだほうこくに藩財政はんざいせいの立て直た　　なおしを命令めいれいしていましたが、安政あんせい４（１８５７）年ねん、２８歳の時さい　ときに備中松山藩びっちゅうまつやまはんに藩儒はんじゅとして仕つかえることになりました。
　甕江おうこうはすぐに頭角とうかくをあらわし、三島中洲みしまちゅうしゅうと共ともに方谷門下ほうこくもんかの双璧そうへきをなすに至いたりますが、藩はんを取り巻と　まく環境かんきょうはしだいに厳きびしさを増まし、甕江おこうは松山藩まつやまはんの危機ききを乗り切の　きるため、高齢の方谷こうれい　ほうこくの手足てあしとなって活躍かつやくしました。慶応けいおう４（１８６８）年ねんの戊辰戦争ぼしんせんそうの際さい、岡山藩おかやまはんの要求ようきゅうによって藩兵はんぺいの隊長たいちょうであった重臣熊田恰じゅうちんくまたあたかが責任せきにんを取とって切腹せっぷくする代かわりに他の藩士ほか　はんしの罪つみを免除めんじょさせるということになったとき、甕江おうこうは目付役めつけやくとして立会たちあい、藩士はんしたちの助命じょめいに力ちからを尽つくしました。
　明治維新後めいじいしんごに松山藩まつやまはんの存続そんぞくを見届みとどけると上京じょうきょうして深川ふかがわに塾じゅくを開ひらき、多おおくの門人もんじんを集あつめました。甕江おうこうは中洲ちゅうしゅうと薩摩出身さつましゅっしんの重野安繹しげのやすつぐと並ならんで、「明治めいじの三大文宗さんだいぶんそう」の一人ひとりにも数かぞえられました。
　のちには政府せいふに仕つかえることになり、大学小博士だいがくしょうはかせ、その後あと、東京帝国大学教授とうきょうていこくだいがくきょうじゅ、貴族院議員きぞくいんぎいんなどを歴任れきにん、後のちの大正天皇たいしょうてんのうの東宮待講とうぐうじこうも務つとめました。また晩年ばんねんの勝静かつきよを度々訪たびたびたずね、その信頼しんらいも厚あつかったそうです。